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妊娠・出産を望んでも子どもが得られない場合、「不妊症」または「不育症」の可能性があります。
不妊症とは
不妊症とは、避妊をしない性交渉を12ヶ月間定期的に続けても臨床妊娠が成立しないこと、または、個人あるいはパートナーとの生殖能力が損なわれることを特徴とする病気と定義されています1)。 通常、妊娠が成立するまでには、❶排卵が起こり、❷卵管まで到達した精子と卵が卵管内で受精し、❸受精卵が成長(細胞分裂)しながら子宮まで移動し、❹子宮に到達した受精卵が子宮内膜へ着床する4つのプロセスがあります(図1)。しかしながら、なんらかの要因により妊娠までの条件が揃わず、治療をしないと妊娠に至らない状態が不妊です。 不妊の原因とその割合は、卵巣因子が20.5%、卵管因子が20.4%、子宮因子が17.6%、免疫因子が5.2%、男性因子が32.7%と報告されています2)(図2)。不妊の原因は女性に起因する因子だけでなく造精機能障害(十分な量の精子あるいは正常な精子が作れない等)など男性側に起因する因子も実は少なくありません。
一般的に不妊は女性の加齢と関係しているといわれており、年齢による妊孕性(妊娠するための力)の喪失は、25歳で4.5%、30歳で7%、35歳で12%、38歳で20%と徐々に増加し、その後は急激に上昇して41歳で約50%、45歳で約90%、50歳で100%に近づくという報告があります1) 。 日本産科婦人科学会では35歳以上で初めて出産を経験する人を「高年初産婦」と定義しています。令和2年(2020年)の人口動態調査によると、出産時の母親の年齢は35歳以上が約3割※を占めており(図3)、過去30年あまりで高齢妊娠・高齢出産の割合が増加していることがわかります。 ※初産婦および経産婦を合わせた割合
不育症とは
生殖年齢の男女が妊娠を希望し、妊娠は成立するものの流産や死産を繰り返して生児が得られない(出産できない)状態を「不育症」と定義しています(日本産科婦人科学会)。さらに原因の有無にかかわらず流産を連続して2回繰り返す場合を反復流産、3回以上繰り返すことを習慣流産とよんでいます。2021年には厚生労働科学研究班より不育症に関する新たな概念が示されました。それによると、2回以上の流死産※の既往がある場合を「不育症」とし、既に生児がいる場合でも2回以上の流死産の既往があれば「不育症」に含めるとされています。その場合、流死産は連続していなくてもよいとされています3)。※異所性妊娠や絨毛性疾患、生化学的妊娠は流産回数に算定しない。
流死産は珍しいことではなく、合計634,272名の女性の1,221,546件の妊娠を対象とした海外の調査研究では、意図した妊娠の13.5%が胎児死亡に終わったと報告されました。流死産もまた女性の加齢とともに増加することが知られており、自然流産のリスクは12〜19歳の女性で13.3%、20〜24歳で11.1%、25〜29歳で11.9%、30〜34歳で15.0%、35〜39歳で24.6%、40〜44歳で51.0%、45歳以上で93.4%と推定されています4)。
不育症の頻度
日本における不育症の頻度を調べたものとして、愛知県岡崎市の健康診断を受診した日本人女性を対象とした調査研究があります。それによると、妊娠歴のある35~79歳の女性の38.3%(958/2503名)が少なくとも1回の流産を経験しており、2回の流産を繰り返す反復流産を4.2%(83/2503名)の女性が、また3回以上の流産を繰りかえす習慣流産を0.9%(22/2503名)の女性が経験していたという結果が報告されています5) 。
不育症のリスク因子
流産の原因はさまざまですが、年齢が上がるにつれて流産率が高くなることは確かです。流産を繰り返す「不育症」のリスク因子も多岐にわたりますが、ここでは年齢以外の主なリスク因子について紹介します。 国内で行われた調査研究によると、リスク因子とその頻度は子宮形態異常が7.9%、甲状腺機能異常が9.5%(機能亢進症1.6%、機能低下症7.9%)、夫婦染色体構造異常(夫婦どちらかの染色体異常)が3.7%、抗リン脂質抗体陽性が8.7%、凝固因子異常として第XII因子欠乏症が7.6%、プロテインS欠乏症が4.3%となり、リスク因子不明は65.2%でした6)。
抗リン脂質抗体症候群(APS)の臨床症状としての「不育症」
「不育症」のリスク因子のうち8.7%を占める「抗リン脂質抗体陽性」が示すことは「抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid antibody syndrome: APS)」とよばれる疾患の可能性です。APSは30代の女性に好発し、動脈や静脈の血栓症、習慣流産や胎児死亡(いわゆる不育症)などの臨床症状を特徴とする自己免疫疾患の一つです7)。 自己免疫疾患とは、本来自己防衛に働くはずの免疫機能が誤って自分自身の組織を攻撃してしまうことで起こる病気の総称です。APS患者の体内では、「抗リン脂質抗体」とよばれる自己抗体(異物ではなく正常な体の一部を攻撃してしまう抗体)が作られます7) 。 抗リン脂質抗体とは、リン脂質、またはリン脂質とそれに結合する多様なタンパク質の複合体に対する自己抗体群の総称です。代表的な抗リン脂質抗体として「抗β2グリコプロテインI抗体(抗β2GPI抗体)」 「抗カルジオリピン抗体(aCL) 」 「ループスアンチコアグラント(LA)」があります7)。
抗リン脂質抗体症候群(APS)の検査
抗リン脂質抗体は不育症のリスク因子であり、不育症の検査において「抗リン脂質抗体」は推奨検査に含まれています3) 。 APSは血栓症や妊娠合併症の臨床症状に加え、以下いずれかの「抗リン脂質抗体」の検出をふまえて総合的に診断されます。抗リン脂質抗体の検査項目に含まれる以下の5項目は2022年3月現在、全て保険適用となっています。
出典:厚生労働省ホームページ(2022年3月現在)より一部改変
抗リン脂質抗体症候群(APS)が原因の不育症は治療できます
「不育症」の原因はさまざまですが、そのなかでもAPSは治療できる病気であり、正しく治療をすれば流産、死産を予防できる可能性があります。 APSの診断基準を満たす患者での流産率は、無治療の場合には90%であるとする報告があります8)。日本では、APS合併妊娠の基本的な治療法として、妊娠初期からの低用量アスピリンと未分画ヘパリン療法が推奨されています9)。海外の研究では、低用量アスピリンと未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリンの併用療法を行うことで70~80%の方が生児を獲得できると報告されています10, 11)。
繰り返し流産・死産を経験したら医師に相談し、適切な検査を
「不育症」の原因がAPSである場合、その治療を行うことで生児を得られる可能性が十分あります。二度の流産・死産を経験した場合は、医師へ相談して「不育症」の検査を行い、適切な対応をとることが大切です。 どちらの産婦人科機関を受診したら良いかわからない場合は、お近くの不育症相談窓口にご相談ください。 全国の不育症相談窓口などお役立ち情報(外部リンク)を下記にご紹介しておりますのでご覧ください。
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