R&D(研究開発)
モノクローナル抗体作製技術の革新
当社は、日本で最初の抗体メーカーとして1969年に設立されました。それ以降、抗体作製技術を基盤に、臨床検査薬、基礎研究用試薬の分野で活動を実施しています。抗体の開発、生産を始め、現在は6000種以上の抗体を販売するほか、自社開発の抗体等を用いた臨床検査薬分野では、自己免疫疾患の診断薬を主力製品として多くの製品群をそろえています。
モノクローナル抗体作製技術は当社の根幹技術であり、コア‐コンピタンスをより一層強化するために、難易度の高い抗体の作製、高品質化といった抗体開発技術の高度化を継続的に行っております。世界に類を見ない革新的な抗体作製技術が完成すれば、自社の製品の高品質化にとどまらず、外部からの抗体作製受託、抗体医薬開発、実施権のライセンス等ビジネスチャンスがより拡大することが期待されます。
マウスモノクローナル抗体作製技術
1975年に初めてマウスモノクローナル抗体作製技術であるハイブリドーマ法が報告されてから35年以上の月日が経っています。1984年に、開発に成功したケラーとミルシュタインの両博士に対してノーベル生理学医学賞が授与されているほど、この発明は極めて画期的でした。しかし、その後バイオテクノロジーは著しく発展したのに比べて、本技術においては飛躍的な進展がほとんどなく、現在まで至っています。当社も、1983年から本格的にマウスモノクローナル抗体の開発を開始しましたが、その後の約20年間、世界中の研究者と同じように技術革新に苦しみ、画期的な進展を現実のものにはできていませんでした。しかしながら、新たな高性能なの抗体作製方法として、2004年のNat. Biotechnologyに理化学研究所の渡邊武ユニットリーダー(現・京都大学大学院医学研究科特任教授)らによって、人工リンパ節技術が報告されました1)。当社では、この人工リンパ節技術を基軸とし、高性能な抗体を作製する技術開発を進めています。
人工リンパ節技術
人工リンパ節技術はその名が示す通り、本来リンパ節のないマウスの腎臓に、人工的にリンパ節を作り出すことを可能にする技術です。通常のリンパ節には様々な免疫担当細胞が存在するのに対して、人工リンパ節には目的の抗原特異的免疫細胞群(開発に必要な細胞群)のみを人為的に閉じ込められる、つまり濃縮できるという大きな特長を有しています。それゆえ、抗原を免疫したマウスで構築した人工リンパ節を別のマウス個体へ移植すれば狙った標的に対する免疫系のみを丸ごと移植させることが可能となります。さらに、レシピエントに免疫不全(SCID)マウスを使うと、人工リンパ節由来の免疫系のみを有するマウスを作り出すことができ、この人工リンパ節を移植されたマウスに対し抗原刺激をすると血中抗体価が、通常のマウスの10~100倍高くなります1)。
当社では、本技術の開発者である渡邉武先生の指導のもと、この原理をモノクローナル抗体作製技術へ利用したところ、従来の方法に比べて取得できる目的のモノクローナル抗体の数が10倍以上になることを確認しました。加えて、取得された抗体遺伝子のusageに偏りもなく、超高親和性抗体の単離効率も高いという注目すべき結果を得ています。これは、人工リンパ節技術を用いることによって、一度に多様性に富んだ質の高いモノクローナル抗体を大量に取得できることだけでなく、この技術が革新的なモノクローナル抗体作製技術であることも意味しています。現在、さらに高品質な抗体を作製できるよう改良を施しているのと同時に、難易度の高い分子に対する抗体の作製にもチャレンジしています。
免疫原性増強抗原技術
「免疫原性増強抗原技術」は、免疫に使用する精製タンパク質に対してある工夫を施すことで、マウスに対する免疫原性を増強させる技術です。抗体価が上昇せずモノクローナル抗体が樹立できないタンパク質で、この工夫を施した抗原、すなわち免疫原性増強抗原を使用すると、抗体価が劇的に上昇するという結果を得ています。これにさらに上記の人工リンパ節技術を組み合わせると相乗効果により、大量のモノクローナル抗体が単離できています。この技術は非常に有用であり、抗体作製難易度の高い標的タンパク質に対しては、この技術を使用して高品質な抗体を作製しています。
ヒトモノクローナル抗体作製技術
近年の治療用抗体には、キメラ抗体、ヒト型化抗体、完全ヒト抗体が使用されています。このうち、完全ヒト抗体は100%がヒト遺伝子由来であるため、安全性の高い抗体医薬と考えられています。
完全ヒト抗体の作製方法は、ファージディスプレイによるヒト抗体遺伝子クローニング法、ヒト型化トランスジェニックマウスに免疫して作製する方法、EBウイルスによるヒト抗体産生細胞の不死化法、フュージョンパートナーとヒト末梢血単核球を融合する方法があります。当社グループでは、フュージョンパートナー法(MBL)とファージディスプレイ法(IFA)になどにより完全ヒト抗体を開発できる体制が整っています。
ヒトフュージョンパートナーSPYMEG
当社では、奥羽大の山本正雅先生と共同で、SPYMEG(PCT/JP2007/058129)というヒトフュージョンパートナーの開発に成功しました。ヒトB細胞とSPYMEGを融合させ、ハイブリドーマを作製すると、非常に効率よくかつ安定的にIgG産生ハイブリドーマを取得することができます。このIgG産生ハイブリドーマの取得効率は、これまで報告されてきた、どのヒトフュージョンパートナーを使った場合よりも、はるかにいいことが示されています。
これまでに共同研究などを通じて、SPYMEGとヒトBリンパ球を融合させる手法でインフルエンザやHIVなどのウイルス感染症に対する有効なヒト抗体の単離に成功しています。
とりわけ、インフルエンザワクチン株に対する中和活性が確認されたヒト抗体については、様々な年代のインフルエンザウイルスワクチン株感染細胞に対する中和活性を調べたところ、興味深い結果を得ています。インフルエンザA型H3N2サブタイプ又はインフルエンザB型で、20年近く前より保存されている株に対して中和活性を有する抗体が存在すること、さらには、40年前から保存されている株に対しても中和活性を示すことも確認されたのです2) 。これは、SPYMEG技術によってユニークな抗体を単離できる可能性を示しています。
このように、SPYMEG技術は、ウイルス感染症に対する有効な抗体医薬の開発へ波及する可能性があります。感染症に罹患した患者さんの中で回復・未発症の患者さんから、それに関わった抗体(中和抗体)の産生細胞をSPYMEGによりヒト抗体産生ハイブリドーマとして樹立することで、当該細胞株が産生する抗体そのものが治療に役立つ、あるいはそれらの抗体の情報から感染症の機序の解明や新たな予防法、治療法の開発につながることが期待されます。
ファージディスプレイ技術
ファージディスプレイを利用したヒト抗体作製技術は、in vitroで抗体を単離するため、生体内では作製が困難な抗原や、致死性であるがゆえに免疫原として使用できない毒素分子や低分子化合物などに対す1010~1011サイズのヒトの免疫ライブラリーとナイーブライブラリーを複数所有しており、ファージディスプレイ技術を基盤とした完全ヒト抗体の開発を行っています。加えて、細胞表面分子に反応する抗体を選別するICOS法3)という独自のスクリーニング法も確立しています。そして、30以上の癌関連分子を同定し、それらに対する600クローン以上の抗体の単離に成功しています。さらに、感染症ウイルスを中和する抗体や抗糖鎖抗体などの単離にも成功しており、海外の大手製薬メーカーが興味を示しています。
特殊動物モノクローナル抗体作製技術
動物を利用した抗体作製はその免疫機能を利用するため、免疫動物がもともと持っているタンパク質、いわゆる自己抗原に対しては、免疫寛容によって抗体価が上昇しないことがあります。通常、研究にはマウスやヒトが用いられるため、抗体のニーズはこれら由来のタンパク質に対するものが大半を占めます。一方、モノクローナル抗体作製技術が確立されている免疫動物としてはマウスが代表的です。従って、マウスのタンパク質と相同性の高いものに対する抗体は取得しにくくなります。裏を返せば、ヒトやマウスと遺伝的に離れている動物を利用できれば、この免疫寛容の問題は回避でき、得られる抗体の幅が広がることになります。この観点からウサギやニワトリのモノクローナル抗体作製技術の開発を行っています。特にニワトリは鳥類であり、ヒトやマウス、ひいては哺乳類全般の標的タンパク質に対して非常に有用な免疫動物です。当社はニワトリのフュージョンパートナーを所有しているため、ハイブリドーマ法でニワトリモノクローナル抗体を開発できる唯一の企業です。
治療用抗体や診断薬、研究用試薬など、ポストゲノム時代に占めるモノクローナル抗体の役割は今後も拡大します。一方、特に治療用抗体開発の分野で表現されている「抗原の枯渇化」という言葉のように、モノクローナル抗体は世界中で盛んに開発されているため、通常の方法で取得できる抗体はほぼ取り尽くされたという極端な意見を述べる人もいます。しかし、例えば人工リンパ節を用いた抗体作製技術をはじめとした上記のような新規性や独自性の高い方法の開発により、世の中には報告されていないユニークな性質や機能を持った抗体や、これまで以上に検出感度が高いなどといった質の高い抗体を作製できる可能性はまだまだ多く残されていると考えられます。当社独自の数々の技術は、この状況を打開し、医療やその研究に貢献できると考えており、さらなる技術開発に邁進しています。
参考文献
1) Suematsu S. and Watanabe T. Nature Biotechnology. 22:1539-1545 (2004) [PMID:55680191]
2) Kubota-Koketsu, R. et al. Biochem Biophys Res Commun. 387(1):180-5(2009) [PMID:19580789]
3) Akahori, Y. et al. Biochem Biophys Res Commun. 378(4):832-5(2009) [PMID:19071089 ]
